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PROJECT 01

Project for restoration of old houses
in the village of Sanzan, Kumamoto Prefecture

2023.1 start
 
現在日本では、総住宅数に占める空き家の割合(空き家率)は13.8%、そして、「賃貸・売却用及び二次的住宅を除く空き家」は5.9%となっており、空き家は約30年で2倍に膨れ上がっています。この数字は世界で一位であり、日本にとって由々しき社会的な問題です(ヨーロッパではフィンランドが第6位、フランスが12位)。それは文化的にも残されるべき古民家が全く使われずにに朽ち果てていく事も意味しています。私達は材料面からも技術面からも、もう作ることのできない価値のある古民家が次々に朽ち果てていくこの現状を止めたいと考えていました。
 
一方、スイス(ヨーロッパ)では古民家保存地区の建物を長期休暇用の貸別荘や共同住宅として観光客向けに再利用するなど、良い形で古民家の保存がが実現されています。それによって文化的な街の景観を守りつつ、時には雇用やコミュティを生み出すなど良い循環が生まれています。
 
「宿家」はベルリン在住の日本人建築家 猪原拓人と福井県在住の中村が、日本の九州の奥地にある阿蘇の産山の物件を改修し、ゆっくりと滞在ができる宿を作るプロジェクトです。
2026年のOPENを目指して自分たちでぼちぼちと解体を進めている最中です。
ぜひご完成までゆっくりと見守っていてください。

Instagramでも発信しております。 
ぜひフォローください。
https://www.instagram.com/yadoya.ubuyama/

 

「宿家 産山邸」は熊本県阿蘇郡産山村に位置しており、産山村は世界でも類を見ない美しい自然環境に囲まれています。その中でも草原、水、温泉が特に魅力的な土地です。
約1万3千年前、縄文時代から存在したと言われる阿蘇の草原は、放牧された牛の姿や、秋には一面黄金のススキ原、冬には結氷する滝、そして春には草原を駆ける野焼きの炎など四季を通じて美しい景観が感じられる場所です。
宿の近くには日本の名水百選にも選ばれた池山水源があります。水温は年間を通して13.5℃、毎分30トンという豊富な湧水量を誇り、湧水地から轟々と水が流れ出ています。地元では古くから生活用水や農業用水として使われてきたほか、近年では飲料水の原水にもなっています。
宿の全ての水は(シャワーなども含めて)このような飲水としても利用されているクリアな水を使用します。
また魅力に一つとして車で15分の位置に秘境の温泉、黒川温泉があります。

改修計画では、まず増改築により失われたシンプルな古民家の姿を取り戻します。古民家が持つ伝統的な構造や木材を活かしつつ、地元の小国杉や土壁、瓦などの自然素材を現代の知識と技術融合させ宿として快適な空間を目指します。また、テレビや過剰な照明を排除し、必要最低限で快適に過ごせる素朴な宿を提供したいと考えています。
古民家はもともと自然素材を使い、石場建ての基礎で通気性を確保し、地震や水害にも柔軟に対応できる構造を備えています。しかし、現代の一般的なコンクリート基礎は土壌や雨水の流れを妨げ、浸水の一因ともなっています。このため、改修にはコンクリートに依存せず、木、土、石、鉄といった再生可能な自然素材を使用し、環境に配慮した作りにしています。
日本の伝統的な家屋の設計は、深い軒で夏の日差しを遮り、風通しを良くする工夫が施されていますが、冬の寒さへの備えは不十分でした。そのため、この古民家では屋根から床下まで断熱を施し、北側の壁には30~35cmの藁壁を設け、夏は涼しく冬は暖かく過ごせる空間を実現しました。特に、キッチンには囲炉裏を思わせる暖炉を設置して冬でも快適に過ごせるようにしています。

南側には大きな縁側と開口部を設け、太陽光を存分に取り入れる設計としました。窓を開放することで縁側と室内を一体化し、広がりのある空間として活用できます。さらに、入口を西側に配置し、外部と内部が緩やかに繋がるように、外から土間、沓脱石、床へと続く導線を整えました。間取りも共用エリアのキッチンや大広間から、プライベートな寝室、バスルーム、と繋がる流れを重視し、大人数でも快適に利用できるよう工夫しています。
大広間は屋根まで開放的な構造で、古民家の空間の美しさと大黒柱の重厚感を引き立てます。引き戸で2部屋に分けられる設計にしており、大人数での宿泊にも対応可能です。さらに、2階には小さな隠れ家のようなスペースを作り、別の角度からこの宿を楽しめる場所としました。ここも寝室として使用できるよう、布団を敷いて利用することが可能です。また、キッチンには日本の漆器や南部鉄器、包丁などを、日々の生活と時間から生まれた道具も揃えます。日本の伝統と現代の技術を融合させたこの宿が、訪れる人々にとって心地よい空間となり、地域にも新たな価値をもたらすことを願っています。
猪原拓人 Takuto Ihara / 中村文信 Fuminobu Nakamura